東京高等裁判所 昭和25年(う)727号 判決
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(理由)
論旨は原判決は本件公訴事實は「昭和二四年一二月一四日午後二時頃東京都台東區上野驛京成地下道附近で正當な理由がないのに刀渡り約三寸五分位の小刀をズボン右ポケツト内に入れて匿して携帶して居たものであるというのであるが本件起訴の日時場所に於て被告人が本件小刀を携帶していた事實を認むるに足る證明がない」との理由で無罪の言渡しをしたのは事實の誤認であるとし原審に於ける被告人の供述、現行犯人逮捕手續書、司法警察官に對する吉村重和喜の供述調書その他の證據を擧げ原判決には事實誤認がある、なお起訴状記載の日時は昭和二四年一二月一四日午後二時頃とあるから午後二時に接着する時刻を示すものであるから審理の結果若干の相違があつても訴因の變更をなすことなく裁判所が自由に事實の認定をなしうるものであるに拘らずこれについて何等の判斷をも示していないのは理由不備の違法があるというにある。よつて起訴状記載の公訴事實を檢討するにその内容は前掲論旨引用の通りである。起訴状(數個の訴因ある場合には各訴因毎に)には罪名の外公訴に係る犯罪の同一性を示すに必要な具體的事實の記載を要するものであるが、犯罪の日時は、一般の場合には何年何日頃というような概略的な記載でも場所や犯罪の目的物などの記載と相まつて當該犯罪と特定し〓べきものであればよい。且つ訴因變更の手續は被告人に不意打を喰わし、その防禦に缺くるところなからしめるための手續であるから、裁判所が審理の結果訴因の概略的記載について正確な日時を認定しても、被告人の防禦に實質上の不利益を及ぼさないときは訴因變更の手續を要しないと解するのが相當である。そこで記録並びに原審が取調べた證據に現われた事實によると所論二時頃には本件小刀は當時逮捕された吉村なる者が携帶していたもので被告人はこれを所持していたのではないが、原審公判調書中の被告人の供述記載並びに吉村の司法警察員に對する供述調書の記載を綜合して考えると本件小刀は昭和二四年一二月一一日から同月一四日午後一時頃迄被告人が携帶しておつたことが窺われるが起訴状に二時頃とあるのを右一時頃と認定しても訴因としての公訴事實の同一性を害するものでもないし被告人の防禦に缺けるところある不意打でもないと解するのが相當である。かような場合には訴因變更の手續を要しないのである。しかるに原判決は起訴状記載の午後二時頃には被告人が本件小刀を携帶していなかつたという點に拘泥し前述のように判斷したのは訴因としての公訴事實中の犯罪の日時の記載に關する法意を誤り且つ訴因變更手續の趣旨を誤り延いて事實の誤認を來たしたものと思はれる。論旨は理由あるもので原判決は破棄を免かれない。